■あらすじ
仕事バリバリの32歳OL、小島五和(こじま さわ)。28歳で最後の恋愛を終えてから、しばらく恋愛なんかしなくていいと思っていた彼女に訪れた30代最初の恋、そして失恋。その相手を見返すために、「恋愛マニュアル」を片手に、日々奮闘していく…
■作者プロフィール
志羽 竜一 1976年生まれ
慶應義塾大学 経済学部卒 東京三菱銀行退行後、三田文學新人賞を受賞してデビュー。
作品:「未来予想図」「アムステルダム・ランチボックス」「シャンペイン・キャデラック」など
※小説内で小島五和が使う「恋愛マニュアル」はNewsCafeトップページ中段リンクから閲覧可能です。
☆30
あした恋するキス講座いわく。
☆好意を表現することで、関係は動き出す。
これは表題を見ただけでも分かるけど、ポイントは「自分から表現して、自分から表現を終える」ことらしい。いままでの応用といったところ。
とにかく新海英之は好意を表現することを恐れるな、としつこくくり返す。このマニュアルを手に取る人にとって、そこが最大のネックになることを知っているのだ。それを克服するためにも、好意をソフトに、フィジカルに表現することを練習するといいという。
「一緒に歩いているときに、相手の腕に触れてみるところからはじめるといいでしょう。そして、自分のタイミングでそれを離すのです」
こんな大胆なことが、すくなくとも自分には大胆に思えることが、自然にできる女の子がいる。小悪魔ちゃん、その存在に私は畏敬の念さえ抱く。でもこれが自然にできない私に、このマニュアルは練習しろと説く。この練習と比べると、連絡先を訊くことなんか子供の遊びに思えてくる。
恋人でもない人の腕に触れる。
こんなことをされて男性はどう思うのだろう。私が腕に触れられる立場なら緊張してしまうし、きっと「こいつ私に気があるんじゃないか」と誤解してしまうと思う。
あたりまえだ。
「これは、そのために行うのです」
あした恋するキス講座いわく。
☆「キラキス」はつねに好意的に理解される。
なんだかキス講座っぽくなってきた、と私はディスプレイに顔を寄せる。キラキスとは、キライキスのこと。
「同じタイミングで好悪が正反対の表現をしても、デジタルに表現していれば（メリハリさえしっかりしていれば）その表現は好意的にとられます。プラスとマイナスが同時に出た場合には、恋愛ではプラスになるのです。たとえば、キライキス」
と言って新海英之が例に挙げたのは、「キライ」とか「バカ」とか「興味ない」とか「死んじゃえ」とかネガティブな言葉を使いながら、自分からキスするシチュエーション。そんなシーン、想像しただけで耳から煙が出るくらい恥ずかしくなる。
「キスだけじゃありません。たとえば手を繋ぐ、腕を組む、頬を寄せる、なんでも同じですが、ポジティブな行動と、ネガティブな言葉が同時に表現された場合、ポジティブなアクションが強調され、ネガティブな言葉は『本心の裏返し』と捉えられます」
ニイミさま、なんて身もフタもないことを。
「逆にネガティブな行動と、ポジティブな言葉の組合せが効果的につかえるタイミングは非常にシビアです。すでにお互いの関係性が確立されている場合を除いて、ほとんどは上手く機能しません」
私はマニュアルを読みながら思う。この本は恋愛から熱意を奪って冷静さを与える。でも恋愛とは冷静な人の方がコントロールできるのだ。
私は情熱を供物にして恋愛を手に入れる。
その先の景色が、見たいから。
