■あらすじ
仕事バリバリの32歳OL、小島五和(こじま さわ)。28歳で最後の恋愛を終えてから、しばらく恋愛なんかしなくていいと思っていた彼女に訪れた30代最初の恋、そして失恋。その相手を見返すために、「恋愛マニュアル」を片手に、日々奮闘していく…

■作者プロフィール
志羽 竜一 1976年生まれ
慶應義塾大学 経済学部卒 東京三菱銀行退行後、三田文學新人賞を受賞してデビュー。
作品:「未来予想図」「アムステルダム・ランチボックス」「シャンペイン・キャデラック」など

※小説内で小島五和が使う「恋愛マニュアル」はNewsCafeトップページ中段リンクから閲覧可能です。

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第11章 驚かせてやるよ

☆44

「遅すぎる。……でも、悪くないわね」

私の提出した企画書を読み終えた加那山はそう言って息を吐いた。

「中川からもひとつ企画をあげてもらってたけれど、こっちで行くわ」

紀美子からの鋭い視線を感じる。私は顔色を変えずに頭を下げて礼を言った。

私が徹夜で仕上げた今回の企画は、例年のイベントを遥かに上回る規模だった。本社の商品であるクリスマス限定シャンパンの発売記念イベントではあるけれど、アパレルと手を組み業界を横断した、いままでにない大規模なイベントになる。

「でもひとつだけ気になるんだけど、営業部の戸田をボードメンバーに入れるっていうのはどうなの。彼、使い物にならないって聞いてるけど」

歯に衣(きぬ)着せぬ加那山はズバッと傑を切って捨てる。

「いや、どうしても彼が必要なんです。今回は大会場を借りますし、有力なアパレルブランドを幾社も巻き込まなければなりません。新規顧客の開拓に経験と実績のある人材が必要なんです」

私は加那山から視線を逸らさずに熱弁した。彼女は唇の片方をつりあげてしばらく考えた後、しぶしぶという感じでオーケーを出した。

「その代わり邪魔になったら即追い出すわよ」

「はい!」

私の返事が大きかったからか加那山は苦笑して「ひとつだけ」と私の興奮を制した。

「ひとつだけ、条件よ。今年のイベントの司会は小島、あなたがやりなさい」

会議室内の全員が声を失った。みないっせいに紀美子に視線を走らせる。あまりに急のことで私はどうしていいのか分からない。

このイベントの花形である司会はずっと紀美子の役回りだった。機転が利き、度胸があって、なにより容姿が華やかである紀美子は、会社の看板を背負うのにぴったりの女の子だったのだ。私がその司会に?

「でも私は……」

「もともと自分の企画でしょ。小さなイベントならいままで幾つもやってきたじゃない。うちの会社の顔になるんだからしっかりやりなさい」

「ちょ、加那山さん……」

「任せたわよ」

加那山は席を立って会議の終了を告げた。

「すごいですね五和さん!」

「頑張ってください! なんか最近輝いてるもん、五和さんにぴったり!」

部員が私に集まって声をかける。その輪を避けるようにして紀美子は会議室から黙って出て行った。まさか綺麗になるための努力がこんな形で報われるなんて思ってもみなかった。

「なんでオレがこんな大変そうな仕事やんなきゃいけないんだよ」

「私の祝勝会なのに自分だけ酔っ払って帰ったんだから文句言わない!」

早速企画の決定を傑に教えると、眉をひそめて文句を言いながらも、その目はまんざらでもなさそうだった。

あの夜、傑の事情を聞いた私が、自分が彼のためにできることを散々考えたあげくようやく思いついたのがこの仕事だった。もちろんトシにも傑の分の仕返しはする。トシが傑を悪く言っていた理由は、自分の不義を全部傑のせいにして自己正当化するためだったのだ。昌弘さん同様、あした恋するキス講座で痛めつけてやろうと思うけれど、とにかくその前に傑には仕事で自信を取りもどして欲しい。

「私と一緒にいると傑がダメになる」

なんて、なにヌルいこと嫁から言われてるんだ。私が昌弘さんを見返したように、傑も奥さんを見返すのだ。傑がダメだなんて、ぜったいに奥さんに思わせたくない。こいつはやるときはやる男なんだ。

私が提案した企画は、アパレルブランドのファッションショーとのコラボレーションだった。飲酒量がどんどん減っている二十代をメインターゲットにして集客する。ポージングポイントをいくつも用意した長いステージを男女の人気モデルが恋人として歩いていく。ポージングポイントではカフェや自宅や公園といったデートのシチュエーションが用意され、その場面場面でシャンパンが効果的に使われる。観客には男女の出会いから告白、恋人になっていくまでいくつもの物語を連続して見えるようになる。

このようなイベントの場合飲料メーカーは協賛のうちの一社として参加することは多いけれど、主体となって動くことは少ない。だからこそ繋がりの薄い他業種と手を組んで、大きな花火を打ち上げてやろうという気概のある人間が必要なのだ。

傑のためであり、会社のためだった。でもそれが結果的に私のためにもなってくる。なんて気持ちのいい好循環なのだろう。

「五和、どうせ大箱つかうならショーだけで時間を終わらせるのもったいなくない?」

傑が企画書を眺めながら考える。

「それもそうね」

「なら音楽関係にも声かけてみるか。ここ、ダンスフロアにしちゃってもいいかもしれない」

傑の意見に私は胸が躍る。

「あくまでシャンパンが主役になるように主導権とれる?」

「まぁ、やれるだけやってみる。まずは知ってる人間から声かけてみてさ」

「さすが面倒見のいい、面倒くさい男」

なんだよそれ、という傑の目はかつての輝きを取りもどしていた。

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