■あらすじ
仕事バリバリの32歳OL、小島五和(こじま さわ)。28歳で最後の恋愛を終えてから、しばらく恋愛なんかしなくていいと思っていた彼女に訪れた30代最初の恋、そして失恋。その相手を見返すために、「恋愛マニュアル」を片手に、日々奮闘していく…

■作者プロフィール
志羽 竜一 1976年生まれ
慶應義塾大学 経済学部卒 東京三菱銀行退行後、三田文學新人賞を受賞してデビュー。
作品:「未来予想図」「アムステルダム・ランチボックス」「シャンペイン・キャデラック」など

※小説内で小島五和が使う「恋愛マニュアル」はNewsCafeトップページ中段リンクから閲覧可能です。

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第7章 年上、好きだよ

☆26

もしかして私、ちょっとモテはじめてる?

と思うなんて気が早い、たかだかメル友が増えただけだ。あれだけ地道に声かけ練習してるんだ、メル友が増えるのは自然の理。

といいつつも、なんか気分は爽快。

容姿を磨く努力、コミュニケーションの練習も怠らないどころか力が入る。好循環、ポジティブの螺旋(らせん)はどこまでもつづいてく。

「あれ、お化粧変えました?」

と社内の何人かから言われるようにもなった。いまごろ気づくなよ、とも思うけれど、そこは香月師匠の技術のたまものだ。わざわざ気づかれないように洋服をシフトしていったし、終わってみればいままでの地味な私の姿はもうどこにもない。

「映画やドラマだとみんな一日で変身するし、男たちはその女の子に恋するけどさ。それ、実社会じゃまったく効果ない。サワすげー、で終わり。だって綺麗になる努力をしたこと、バレバレだし。そういうの、男ってマジ冷静に見てるからさ。綺麗になる努力をしているところは、男には見せちゃいけないんだよ。男はね、いつの間にか綺麗になってた女の子に惹かれるんだよ」

香月師匠はストローをくわえながら言った。

「それにさ、テレビの変身ショーで魅力的になった奥さんとか旦那とか、よくいるじゃん? あれ、ずっと魅力的なまんまだと思う? まさかね。あのヘアメイクや化粧、洋服は1パターンしかない。だから方向性が分からないし、ほかになにが似合うのかも分からない。魚をもらっただけで、釣り方は教えてもらってないんだよ。 サワ、覚えてて。綺麗を持続させるには、ぜったいに下地となる努力が必要なんだよ。でも、その努力は必ず報われる。サワのマニュアルじゃ美意識だって言ってるけど、私にいわせりゃ緊張感だっつーの。女でいることの緊張感。男を出し抜くための緊張感」

あの傑でさえ、私の変化に驚いたくらいだった。

「すげぇな、お前」

となんだかよく分からない褒め言葉だったけれど。

「私というより、香月師匠がすごい。さすが女のプロだね」

「まー、女であることだけには手を抜かないからな。普段はあんな口悪いのに、客によっては目つきや語尾まで変えるくらい徹底してるし」

「っていうか、それ以前に超綺麗じゃん。あんな女の子とデートしてるのになんでエヌキミエヌキミ言ってるのかわけわからないよ」

「遥は別」

「ハルカ?」

あぁ、香月の本名な、と恥ずかしそうに言った。こいつ、もしかしてシリアスにつき合ってるのか。あんな美人と。女のプロと。私は香月師匠の本名も聞いたことがなかったのに、と悔しい気持ちになる。

「別居中の奥さんだってすごい綺麗みたいじゃない」

「それ、誰から聞いたんだよ。遥か?」

トシから、と答えそうになったけれどトシは傑のことを嫌っていそうだったし、ややこしくなりそうだったので「酔ったとき前、自分で言ってたじゃん」と誤魔化した。

「ほんとかそれ? まいいけどさ、遥にはオレと祐理のことなにも言うなよ。わかってるな?」

「なにも言いやしませんよ。モテ乙女になるのに必死で、傑の話をするほど暇じゃないの。でも善人そうな顔しちゃって意外にも女たらしだよね傑は」

「ふん。なんなら五和もオレの彼女名簿に名前載せてやろっか、エヌキミの隣でよければ?」

誰が載るか、しかもエヌキミは彼女でもなんでもないじゃないか。私は傑の尻を蹴り上げて部署に戻る。なにを言われたって、私は一ヶ月前よりも綺麗になってる、その事実が自分の足取りを軽くさせた。

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